保育園やこども園では、子どもたちが長い時間を室内で過ごします。 元気に走り回り、遊び、学び、食事やお昼寝も同じ空間で行うことが多いため、「室内環境」が子どもの体調や安心感に大きく影響します。 床やおもちゃをきれいにすることはもちろん大切ですが、近年は目に見えない「空気の質」にも気を配る園が増えつつあります。
花粉やハウスダスト、ウイルスや細菌、カビの胞子、日々の生活で発生するホコリやニオイなど、空気中にはさまざまなものが漂っています。 体の機能がまだ発達途上にある子どもたちにとって、こうした空気環境は大人以上に影響が出やすいと考えられます。 そこで、園内の空気環境を整える方法の一つとして検討されているのが「空気清浄機」の導入です。
本記事では、保育施設ならではの視点から、空気清浄機の役割や導入のメリット、選び方のポイントについて整理します。
保育施設の空気が汚れやすい理由
まず、保育園・こども園ならではの「空気が汚れやすい要因」を確認しておきます。 一般家庭と比べても、子どもの人数や活動量が多いため、室内環境はダイナミックに変化します。
子どもの動きによるホコリの舞い上がり
走ったり、ジャンプしたり、マットの上で遊んだりと、子どもたちの活動はとても活発です。 その分、床に落ちたホコリや砂、繊維くずなどが舞い上がりやすくなります。 掃除をこまめにしていても、空気中には細かいホコリが漂い続けることがあります。
外で遊んだあとの花粉・砂ぼこりの持ち込み
外遊びは成長にとって欠かせない活動ですが、園庭や公園で遊んだ後の衣類や靴には、花粉や砂ぼこりが多く付着しています。 登園時や外遊びから戻ったタイミングで、こうした汚れが室内に持ち込まれ、保育室の空気にも影響を与えます。
お昼寝スペースに溜まりやすいホコリ
お昼寝の時間には、布団や毛布、タオルケットがたくさん並びます。 寝具を敷いたり片付けたりするたびに、繊維やホコリが空中に舞い上がります。 特に、ぜんそくやハウスダストのアレルギーがある子どもにとっては、こうした環境が負担になることも考えられます。
生活臭・調理のニオイ
給食室が近い保育室では、調理のニオイが流れ込んでくることがあります。 また、おむつ替えやトイレトレーニング、汗をかいた服など、子どもの生活に伴うニオイも少なくありません。 換気だけではなかなか取りきれず、「なんとなくこもったニオイ」が残ってしまうこともあります。
空気清浄機ができること・できないこと
空気清浄機を導入する前に、「何をしてくれる機器なのか」を整理しておくことが大切です。 必要以上に過度な期待を持つのではなく、役割を正しく理解したうえで、日々の衛生管理に取り入れることが理想的です。
空気清浄機が得意とすること
空気清浄機は、室内の空気を取り込み、内部のフィルターに通すことで、空気中の汚れを捕集します。 高性能なフィルターが搭載されている機種では、次のようなものを減らすことが期待できます。
- ホコリや微小な粉じん
- 花粉やハウスダスト
- カビの胞子などの一部の微生物
- ニオイの原因となる成分（脱臭フィルター搭載の場合）
もちろん、すべてを完全に取り除けるわけではありませんが、「空気中に漂う量を減らす」ことで、 子どもたちが吸い込む汚れの負荷を軽くするサポート役になります。
空気清浄機だけでは不十分な部分
一方で、空気清浄機は「床や机、おもちゃに付着した汚れ」を直接落とすことはできません。 また、換気扇の代わりになるわけでもなく、二酸化炭素濃度の上昇を防ぐこともできません。
そのため、空気清浄機はあくまで「換気と掃除を補う存在」として考える必要があります。 窓を開けて空気を入れ替えることや、清掃・消毒をこまめに行うことは、これまで通り欠かせない基本です。
保育施設で空気清浄機を導入するメリット
では、実際に保育園・こども園で空気清浄機を使うことで、どのようなメリットが期待できるでしょうか。 子ども・保護者・職員、それぞれの立場から見たポイントを整理します。
子どもにとってのメリット
花粉やホコリ、カビの胞子などが減ることで、アレルギー症状や咳、鼻水などの軽減が期待できます。 すべての症状がなくなるわけではありませんが、「保育室にいる時は楽そう」と感じられるような環境づくりにつながるかもしれません。
また、空気が重く感じにくくなることで、長時間過ごしても疲れにくい室内環境を整える一助になります。 体調を崩しやすい子どもにとっては、小さな変化が積み重なって、大きな安心感につながる可能性もあります。
保護者にとっての安心感
園を選ぶ保護者にとって、「衛生面への配慮」は大きな関心事の一つです。 清掃や消毒に加えて、空気環境にも配慮していることを伝えられれば、安心感や信頼感の向上につながります。
特に、アレルギーやぜんそくなどを抱えているお子さんの保護者にとっては、 空気環境への取り組みは園を選ぶ際の重要な情報となることがあります。
職員にとっての働きやすさ
保育士や調理員など、園で働く職員にとっても、空気環境は日々の体調や集中力に影響します。 ホコリっぽさやニオイが軽減されることで、頭が重くなりにくい、疲れにくいと感じる人もいるかもしれません。
また、見た目には分かりにくい「空気の清潔感」に配慮していることで、自分たちの仕事に対する誇りやモチベーションの向上にもつながる可能性があります。
保育施設で空気清浄機を選ぶときのポイント
実際に導入を検討する際には、一般家庭とは少し異なる視点で機種選定を行う必要があります。 主なポイントをいくつか挙げます。
保育室の広さ・人数に見合った性能か
空気清浄機には、「適用床面積」や「◯畳まで」といった表示があります。 保育室の広さだけでなく、子どもの人数や活動量も加味して、余裕を持った能力の機種を選ぶことが大切です。 ひとつの部屋で大人数が過ごす場合は、複数台を設置する方がよいこともあります。
フィルター性能とメンテナンス性
花粉やホコリ対策を重視するのか、ニオイ対策も重視するのかによって、必要なフィルター構成が変わります。 また、フィルター交換や清掃の手間をどれくらいかけられるかも現場運用の大きなポイントです。
プレフィルターが簡単に外せるか、フィルター交換の頻度とコストはどの程度かなど、 実際に保育業務の合間にメンテナンスができるかどうかを具体的にイメージして選ぶ必要があります。
運転音と設置場所
子どもが長時間過ごす空間では、運転音の大きさも気になるところです。 特にお昼寝の時間に近くで音がすると、眠りの妨げになる可能性もあります。 静音モードの有無や、運転音の目安を事前に確認しておくと安心です。
設置場所については、子どもがぶつかったり、いたずらしたりしにくい位置を選ぶことが重要です。 同時に、空気の流れがある程度確保できる場所に置くことで、効率よく室内の空気を循環させることができます。
空気清浄機を「衛生管理の一部」として位置づける
保育園・こども園での衛生管理は、掃除・消毒・換気・手洗い・うがいなど、多くの要素が組み合わさって成り立っています。 空気清浄機はその中の一つのツールであり、「これがあれば十分」というものではありません。
しかし、「空気」という見えにくい部分に対しても手を打っていることは、子どもたちが安心して過ごせる環境づくりにとって大きな意味があります。 また、保護者や職員にとっても、「この園は空気環境にも配慮している」という具体的な取り組みとして伝えやすいポイントになります。
園の設備や予算、建物の構造などによって、導入の仕方はさまざまです。 まずは、どの部屋の空気環境を優先的に整えたいのか、何を一番減らしたいのか（ホコリ・花粉・ニオイなど）を整理し、 園の実情に合った形で空気清浄機の活用を検討していくことが大切です。
